「おかえりなさい」
むかしね、わたしにも居場所がなかった。
どこにいても誰といても一人ぼっちだと感じていた。どこも安らげる場所がなかった。
暗いトンネルの中で、孤独感に追われている気がしていた。
でもね、今はここに居場所を見つけたんだ。
あなたは今、居場所がないんだよね。それならここでゆっくりしていくといい。
あなたの安らげる居場所が見つかるまで、今はわたしが心の拠り所となるから。
あなたの心の拠り所がわたしの居場所
「さあ、あがって」
なにも遠慮することはない。わたしはあなたの心の拠り所となるためにここにいるんだから。
あなたがここに訪ねて来てくれたことで、わたしの居場所が意味を持つ。
そう、わたしの居場所とは、わたしを必要としてくれるあなたの力になること。
ただ、美味しい料理はつくれないし、ボロボロの毛布しかない。口下手で文章でしか伝えることができない。
こんなわたしですが、どうぞよろしく。
温かい食事をどうぞ
「さあ、召し上がれ」
けして美味しくはないかもしれない。けして見栄えもよくない。でも温まるでしょう。
冷えた身体には温かい食事がいちばん。たまには誰かの作った食事で温まるのもいいでしょう。
わたしはわたしを必要としてくれる人がいる限り温かい食事を作りつづける。
あなたが食事を口にする姿がうれしいから。
わたしにとって温かい食事とは言葉なんだ。言葉はあなたの心を満たし、温める力がある。
わたしも言葉で温めてもらい、勇気をもらい、そして助けてもらった。
今はわたしがあなたを温める。
安心して眠ればいい。わたしが守るから。
「おやすみなさい」
ここにはボロボロの毛布しかないけど、暖炉はつけておくね。
あなたは孤独ではない。寂しくもない。
わたしは一晩中、あなたの眠る部屋の前で本を読んでいるから。
わたしが本を読む理由は、本の中にも世界が広がっていてわたしの居場所があるからなんだよ。
本の中にはいろいろな価値観がある。自分の知らないこともたくさんある。本を読むことで広い世界に触れることができるんだ。
だから今、わたしは一人でも孤独を感じることはないんだ。
たまに居眠りはするかもしれないけど、あなたのことはちゃんと守るから。
今はただ、そっと目を閉じて安心して眠ればいい。
朝日の輝く場所で
「おはよう」
わたしの自慢のコーヒーを入れてあげよう。
外はまだ暗いから、暖炉の前で本を読むといい。わたしの本棚からあなたの好きな本をプレゼントするよ。
あなたの好きがあなたの居場所になるかもしれないから。
朝日が昇ったら、窓から見える丘にいってみよう。あそこから眺める海は最高なんだ。
広い海を眺めるとちっぽけな自分が浮かび上がる。
ちっぽけな自分だけど確かに存在していると実感できる瞬間なんだ。
本当の居場所は自分の中にあるのかもしれない
「行ってらっしゃい」
外はまだ寒いかもしれない。だから風邪をひかないようにね。
わたしはここにいるから、寒かったら戻っておいで。
ここには温かい食事もボロボロの毛布もあるし、本棚にはたくさんの本がある。そして海の見える丘もあるんだ。
コーヒーを飲みながらまたあなたの話を聞かせてね。
わたしはあなたの心の拠り所。
いつもあなたの中にいるから安心して出かけるといい。
灯りは付けておくから。